自(持)論展開

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作品を仕上げるまでの過程

作品を仕上げていくためには楽譜を見て、音取りをして、暗譜して終わりというわけではありません。
ここでは僕がどのように作品に向き合い準備をしていくかを記します。
オペラの場合、お仕事を頂いてから立ち稽古初日を迎えるまでに次の工程を経ます。

全く未知の作品の場合
① 作品を理解するための資料を集める
② 録音物を聴きながら楽譜を追う
③ 対訳を参照し、わからない単語の意味を調べる
④ 楽譜を黙読
⑤ 音程を付けずにリズム読み
⑥ 音取り
⑦ 歌い込み
⑧ 暗譜

順を追って説明していきます。
① 作品を理解するための資料を集める
資料とは具体的に言うと、作品の録音物、対訳、リブレット、作品の解説書、史実に基づく話ならば歴史本などです。今なら検索やYoutubeなどで容易に集めることができます。もちろん集めるだけではなく読み、できるだけ知識を得ようとします。

② 録音物を聴きながら楽譜を追う
最初は楽譜見ずに純粋に音楽だけ聴いて楽しんでください。楽譜が手に入っているのなら自分の役のところを蛍光ペン等でマーキングしながらでも良いです。
楽譜を開き最初から最後まで聴き、落ちることなく楽譜を終えるようにします。

③ 対訳を参照し、わからない単語の意味を調べる。
単語の意味が分からなければ歌詞を理解をした上で歌うことはできません。このとき一番大切なのは楽譜上に対訳を写さないことです。対訳を書き込んでしまうと対訳に頼って歌ってしまいます。そうすると本質から離れてしまいます。どういうことかというと、対訳者は読み手に理解してもらうためにある程度意訳をします。意訳をすると訳に訳者の意思が反映されます。外国語の特性で和文にすると倒置せざるを得ない箇所がどうしても出てきます。そうすると楽譜上の単語や文節からずれてしまうんです。
単語や文節にはそれぞれその時の温度や色があります。それらを表現するには最低限単語で捉えて歌うようにしなければなりません。

①、②、③の過程は同時に行っても構いません。これらの作業が一番時間を使います。1日で聴き終るようにしなくても良いです。少しずつで構いません。他のことができなくなりますから。同時に他の作品を準備するときは尚更です。

④ 楽譜を黙読
ここまでくると楽譜を追うだけで頭の中でうっすら音楽が鳴ると思います。それに合わせて自分が担当するパートを頭の中でなぞってみます。

⑤ 音程を付けずにリズム読み
ここで初めて口に出します。音程は無視しますがリズムを正確にしゃべれるようにします。このときに子音の捌き等、発音上の問題は解決してしまいます。

⑥ 音取り
やっと音取りです。ここまでなぜこんなに過程を踏んだかというと、音取りが一番声帯に負担をかけるからです。なので音取りまでに解消できる問題はすべて取り除くようにするのです。歌は他の楽器の人に比べて練習する時間が短いです。それは疲れやすいからです。できたとしても1日2時間がせいぜいじゃないでしょうか。僕は音取りに1時間以上かけることはありません。

⑦ 歌い込み
文字通り歌い込んで自分のものにしていく過程です。高音、低音の処理、フレーズのつなぎ方、感情を表現するためにダイナミックをどう使い分けるかなど問題点を洗い出し何度も繰り返します。

⑧ 暗譜
⑦までの過程をこなすと若い方ならもう暗譜できているかもしれません。全く羨ましい限りです。先程①②③の作業が一番時間がかかると言いましたが、今の僕はそれ以上に暗譜に時間がかかるようになってしまいました。20代にもっと勉強しておけば良かったと思います。
楽譜を見ながら暗譜する と 楽譜を外して歌ってみる の繰り返しを行います。
最終的には通勤、通学途中に鼻歌で歌ったり脳内で歌ったりで確認できるようにします。

まとめ
① 作品を理解するための資料を集める 
録音物、対訳、解説書、Youtube 、検索などを使い知識を入れる。

② 録音物を聴きながら楽譜を追う
マーキングしながらでも良い。落とさずに楽譜を追えるように。

③ 対訳を参照し、わからない単語の意味を調べる
対訳を楽譜に書き込まない、言葉が持つ温度や色を感じる。

①②③は同時に行って良い。

④ 楽譜を黙読
脳内で歌う感覚

⑤ 音程を付けずにリズム読み
言葉に関する問題はここで解決してしまおう。

⑥ 音取り
一度にやろうとしない。無理せず短い時間で。
⑦ 歌い込み
表現上の問題はここで解決しよう。

⑧ 暗譜
僕の場合、暗譜最終確認は家事をしながらだったり、歩きながらだったりします。

これら八つの過程を終了するのにかかる時間は半年から9か月です。
これじゃ長すぎるよ、他の作品できないじゃないか、の声には次回(いつになるかわかりませんが)
「複数の作品を同時に準備するには」というタイトルで書いていこうと思います。
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